オープンダイアローグとは
フィンランドでは、精神的に困難を抱えた人の8割が、オープンダイアローグと呼ばれる「対話」によって回復している。
「感じるオープンダイアローグ」は、精神科医の森川すいめい先生によって書かれた書籍です。
フィンランド発祥のオープンダイアローグは、精神的な困難に直面した人とその周りの人、医師を始めとした医療チームで行う対話を通して回復につなげていく方法だそうです。
私はオープンダイアローグという言葉を、この本で初めて知りました。とあるサイトの選書になっていたこの本を、さまざまな種類の椅子やソファが丸く配置されたかわいらしい表紙に魅かれて読み始めましたが、2日ほどでするすると読んでしまいました。
この本ではオープンダイアローグのトレーニングやプロセスを、日本人医師として初めてオープンダイアローグの国際トレーナーの資格を取得した著者が執筆しています。
オープンダイアローグの詳細については、ぜひこの本を読んでほしいです。
ここでは「感じるオープンダイアローグ」を通して、対話について私なりに考えた感想を書いていきたいと思います。
言葉を交わすことの難しさ
基本的に在宅ワークの私ですが、言葉を全く発しないという日はありません。家族や仕事先の人と何かしらの会話はしています。
生まれて話せるようになって、ウン十年…毎日話しているはずなのに、会話をマスターすることって決してないですよね。
信頼している人から掛けてもらった何気ない言葉で、何年もの悩みが一瞬で無くなることもありますし、友達からかけられた言葉が棘となってずっと心に刺さっていることもあります。
よく言葉は薬にも毒にもなるとは言いますが、本当にそう感じます。
しかし、生きていると対話の中で忘れられない経験を、誰しもひとつは持っているのではないでしょうか?
大学で私は音楽系の部活動に所属していました。ある日夜遅く、後輩からかかってきた電話は悩みの相談でした。
話を聞いていて、お互い思うことを伝えあいましたが、どこか釈然としない空気が流れていました。今思えば、お互いを思って伝えあっていたつもりでも、どこか会話が上すべりしていたのだと思います。
後輩がしゃべらなくなりました。しかし電話を切る訳でもない。
私はじっと後輩の言葉を待つことにしました。そこまで長い時間では無かったかもしれませんが、あの時私はその沈黙をかなり長く感じました。
すると後輩から、先ほどは聞けなかった言葉が涙と共にぽつりぽつりとこぼれ始めました。
部活にかけている情熱、それを周りの人に理解してもらえない悲しみ、しかしそれを解決するための努力の仕方がつかめない…
その話を聞いているうちに、私は本人がどうしたいか、もうすでに自身の中にあると感じました。
相談したい、といっても答えを他人に求めているわけではない時もある。しかし本人も、その自分の中の答えをうまく言語化できなくて、理解しきれなくて、誰かに聞いてもらいたがっている。
あの長い沈黙の間に、彼女はそれをどう伝えればよいか必死に考えていたのだと思います。
私は自分の考えを伝えることはやめ、彼女の言葉に必死に耳を傾けました。そして彼女の言葉を自分なりに整理して伝えると、彼女はなんだかすうっとしたようで。
電話越しに感じた彼女の変化を、今でも覚えています。
この本を読んで、あのときの電話を改めて思い出しました。
人と人が容易につながる
この本で印象に残った「自殺希少地域」についてのエピソードにも触れたいと思います。
自殺の少ない地域を調査することで自殺予防因子が見つかるのではないかという研究がなされました。調査当時は「そんなものあるはずない」と白い目で見られていたそうですが、その結果は非常に興味深い結果となったそうです。
岡さんは、自殺希少地域で発見した言葉を紹介してくれた。
「人間関係は疎で多」「ゆるやかな紐帯」「近所づきあいは挨拶程度、立ち話程度」「右へ倣えを嫌う」「病は市に出せ」「学歴とか肩書ではなく、人物本位」…。
感じるオープンダイアローグ p.47
山梨県の石和温泉へ旅行したときのことですが、そのときの人との関わりはまさにこのような心地よさがあったように感じます。
夕食のとき、バックヤードから従業員の活気ある声が聞こえてきて、オープンキッチンのシェフは気さくに旅館でかつて出した料理について語ってくれました。担当の給仕さんが私たちの顔を覚えてくれていて、帰りに声をかけてくれました。
近くに穴場の桜スポットはないかと聞くと、親身に話してくれました。
どの会話にも押しつけがましさやよそよそしさは無く、多くの方がこの地元が好きで、日々の仕事に熱心に取り組んでいると感じました。
知らない人に話しかけられたり、知らない番号から電話がかかってきたり…そんなときに私たちは、まず相手に「得体のしれない」とマイナススタートで接することが大半だと思います。
ネットの普及で人と人とが簡単につながれるようになったこの世界で、だからこそ悪いことや煩わしいことに巻き込まれないように、そういう心構えでいることは決して悪いことではないと思います。
しかし、そんな人間関係だけでは心が健康に保たれないのも事実です。自分がどんな世界で生きたいか、そうするためにはどんな人と関わっていきたいか。そういう人と出会うためにも、やはり言葉のやり取りが必要であると感じています。
そっと手元に置いておきたい本
まだまだここで書ききれていない、人と人との間で交わされる言葉についての気づきが、この本にはたくさんありました。
オープンダイアローグは、病院で実践される治療の一環ですが、私たちの普段の暮らしや対人関係に大いに役に立つと感じています。
もし自分が人との会話で悩んだときや、そばに悩んでいる人がいたときに、この本を開けば解決に向けて一歩踏み出せるような本です。
にほんブログ村
ブログ村の「本ブログ」ランキングに参加しています。ぽちっとして頂けると励みになります♪